コメとミリ(11)

体調もガッツリ治って年が明けた。
年が明ける瞬間僕たちはミリの大好きな日本酒こと上善水如で乾杯をした。僕は相変わらずお酒が飲めないので日本酒をお湯で割って飲んだ。あんまりおいしくない。
正月気分が漸く抜けた一月の半ば頃になって僕は自分の容姿の変化に気が付いた。以前から何となく体が軽くなったような感じがしていた。体調いいなあー等と思っていてそんなに気にも留めなかったが久々に体重計に乗ってみたら最後に乗った去年の今頃に比べると6キロ近く落ちていた。そういえば最近頬のあたりに密集している吹き出物も目立たなくなってきた気がする。
「…みたいな感じなんだけど。どうでしょう。」
「知らねえよ!あーでもなんか確かにちょっとスリムになってきたってゆうか。つうか嫌味かよ。」
「いや、僕の人生の中で体重が減少傾向にあるのは初めてなのでちょっと不安。病気かな。」
「うーむ。病院で検査受けてみたらどうですか。疲れとかで体重が落ちてんならちょっとあたしも不安だよ。」
そして大宮区の総合病院に行った。なんか筒状の機械に入ったりバリウム飲んだりした結果、
「正常。元気すぎ。」
との太鼓判をお医者からいただいた。
「全然だいじょぶ。健康。」
「ふーんなんだろう。ああ、あたしが最近温野菜食にハマってて、一緒になって野菜ばっか食ってるからじゃないですか。だとしたらなんか説明付く感じ。」
「なるほどそれなら合点いく。」
そうなのだ。
ミリは最近温野菜で簡単ダイエット!なる怪しい書物をエジソン屋でじっくり読む内になんとなく温野菜ダイエットを始めてしまい、ここ最近火を通した野菜ばっか食っているのであった。
僕は野菜が大嫌いなのだけれど、ミリの作る温野菜メニューはどれもこれも実に旨そうなシロモノばかりなのでいつしか一緒になって食うようになった。そして3週間後の今日の体重は、去年の今頃より6キロも落ちているのだった。こりゃたしかに効果あるダイエットだわ。
しかし同じメニューを僕の半分も食べていないミリは依然として体重は減っていないようだった。どうゆうことだ。
「えーと、ミリちゃん、きみは…」
「あー… あたしはまあ体重減らすとかじゃなくて単なる健康志向だから。減らそうと思ってないし。」
「ふーんそうかあ。」
しかしミリが頻繁に体重計に乗るところを僕はこっそりと何度も見ているのでそれは嘘だと思った。事実彼女は、ちょっとずつではあるものの、だんだんと顔の辺りが、なんかこう、丸く…

原因が分かったのはそれから数日後のことであった。
入稿も無事終わって、たまにはエジソン屋でも行ってミリでもからかってみようかなーと思った平日の昼、帰宅途中に最近出来た総菜屋の軒先に、店員と楽しそうに喋りながらでかいコロッケをパクつくミリを見てしまったのであった。

「うおい!」
「わあ米井さん!」
「…なにガッツリ食ってんだよ。ミリちゃんあんた、こないだ散々「あたしゃもう温野菜以外は口にしない!」とかっていってたじゃん。」
「だだだだってこのコロッケは本当においしいんだよ!見てよこの原型のサイズ!これで一個200円だよ!食べたくなんじゃん!」
ミリは店員の女性が今揚げたばかりの「びっくりコロッケ」を指さした。
「うわあ!でけえ!なんだ、赤ちゃんの頭みてえ!」
「これがまたほんとおいしいんだよ…」
ミリは泣きそうな顔をしつつも、そのびっくりコロッケをパクついていた。
「じゃあもう温野菜ダイエットとかやめなよ…」
「いや、実はもうダイエットとかそんなんで作ってる訳じゃないのよ…」
「は。」
「このコロッケね、おいしくていつも仕事終わった後に2個食べちゃうの。でね、夜ご飯食べられないでしょ。だからてきとーに野菜を…」
「そそそそそんなもんに僕を巻き込むなあああ!!」
しかしそのあとミリに勧められて食べたびっくりコロッケは本当においしかった。こりゃ毎日食えるよ。
そんなわけで僕もついつい会社帰りにびっくりコロッケを買うようになってしまった。残業中の夜食にも、とバイト三人と夕方に買いに来るようになってしまい、そのころにはミリの温野菜ダイエットと称した野菜食もなくなってしまい、僕の体重は久々に右肩上がりになり、ミリはますます丸くなっていった。つづけ。

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