コメとミリ(1)

大学に入ったら埼玉から出て初の一人暮らし・東京編をスタートさせるべく必死に受験勉強をし、希望大学はすべて都内にし、準備万端にて受験するもすべて不合格の連絡をいただき、じゃあってんで大学は諦めマスコミだったらもてそうだなあとゆう浅はかな考えのもと広告業界に殴り込みをかけたが、広告媒体といえども、仕事を覚えていくと同時に実はこの会社はどっちかとゆーとスーツ着用で颯爽と働くバッキバキの広告代理店ではなく、辛気臭い地味な求人広告の会社だったことにうっすらと気付き、会社の規模も小さく、働いている女子社員は学生時代は一貫して文化部ですみたいな陰気な女か、またはおとうさん連中のあしらい方がモロにお水みたいな手練手管覚えまくりのかわいげの無い女しかいないので、あーつまんねえや、と思い会社は辞めた。二十歳の時に辞めたいとゆう旨を人事部に伝え、晴れて二十四歳の誕生日の今日辞めた。四年間に渡る辞めます、いやもうちょっと仕事してみんかね、とゆう押し問答は地元でも結構有名な話題になった。僕気が弱いからなあ。
仕事を辞めたが次の仕事は決まっていなかったので、とりあえず彼女の家に転がり込んだ。彼女こと美里は、「みさと」と読むんだけど僕はミリと読んでいる。彼女は身体が小さいから。そして目付きが悪い上目も悪いからいっつもしかめっ面してるんだ。「ミリ」とゆう語感が非常に合う。
彼女はその辛気臭い会社で出会った。
僕は小学生のときに初めてコンピュータを触ってからずっとパソコンオタクであった。パソコンオタクであることのメリットは、意外とどんな会社でも通用するなあ、とゆうところであった。なんせコンピュータが大好きなもんだから、コンピュータの周辺にあるものも大好きなもんだから、当然どんなソフトウェアでも好き嫌い無くなんでも食べちゃうもんだから、どこでなにやったってすぐ順応しちゃうもんなのである。
故にずっと収入には困らなかった。高校生の時には近所の建築会社の事務にて計算表ソフトで有名なアレをばりばりいじくり倒し、高校生としては破格なバイト料を貰っていた。
彼女は、初対面で年上の僕の目の前で、上司に「この人に教わるの嫌です。気持ち悪い。あとなんか鼻がスピースピー鳴るんです。」とのたまった。実際僕はデブだしすげえ気持ち悪い顔をしているのでうんうん、ごめんね気持ち悪くて。鼻もスピースピーいってるよ。でもさ、笛みたいなもんだよ。ピューと鳴る鼻だよ。これは精神が高揚しているときに体温が上昇した結果鼻腔内が乾いて鳴るんだよ。なぜ精神が高揚するかって、僕は君の事が好き、だ、からだ… なんて職場内で言ってしまった。社員全員が僕をえっ!?とゆう目で注視する。居合わせた女子社員なんかはおしっこを漏らしそうになっていた。僕は何を言ってるんだろうとうっすら考えた一瞬の後とんでもないこと言った!と気付いた。気付いたのは「だ、」のあたりであり、そのあと徐々にトーンダウンしていった。完全に僕がミュートしてしまった後に彼女は「辞めます」と言ってそのまま帰宅し、会社には二度と来なかった。人事も黙認した。そりゃそうだよね。僕が人事部だったら初日で早退し退職した彼女に退職金だって払ったと思う。
しかし彼女は会社には二度と来なかったが、僕のアパートがある北浦和には。その日会社から帰ったら、北浦和の駅の改札に居た。そして小さい身体の彼女は右手に持ったハンドバッグを振りかぶって僕の腕に叩きつけた。何が入ってるのか知らないけどズドンとゆうすさまじい音と共に僕に叩きつけたハンドバッグは取っ手がちぎれてドスン!とコンクリの床に落ちた。中から分厚い辞書がごろりと出てきた。
「この辞書は今買ったばっかりの辞書。米井さんを叩くために六千円も払いました。六千円も払ったけどだいぶすっきりしました。」
「はあ。」
僕の腕は肘から下が変な角度で曲がっていた。
「昼間会社で言ったことは本当ですか。」
「本当です。本当なんです。本当なんですが初対面で好きになるなんて信じられますか。普通恋愛とゆうものは最初一ヶ月は電話、次の一ヶ月は公園や映画館や買い物に付き合う、その次の一ヶ月はやっぱり公園とかなんだけど手をつなぐ。そんな感じで愛とゆーものは育むものなんじゃないんですか。だから昼間言ったことは忘れてください。僕は僕が信じられない。」
途中から何を言っているのか自分でも分からなくなっていった。しかし彼女は僕の目をじっと見つめて聞いていた。
「だってそうでしょう。いきなり初対面の男に、しかもこんなデブで、不細工で、鼻がスピーとか鳴ってて、いい年こいて童貞だし、最近尻にぶつぶつが出来てきったなくなってきてるんですよ僕。あ、そうじゃなくって。」
彼女は笑いもせずうんうん、と聞いていた。僕はだんだん泣けてきた。
自分で考える脳よりも早く次々に弁明とも取れるような発言がとめどなくあふれ出ていった。そのいっこいっこを彼女はひとつ残らず飲み込んでいった。
その様を見て僕はますます泣けてきた。僕はまだ人がガンガン通ってゆく北浦和の改札前でぼろぼろ泣いていた。そしてすでに僕の発する言葉は嗚咽になっていた。
そして最後に
「ずぎなんでずう。」
と言った。
僕の腕は実は脱臼しかけていた。
「いいですよ。」彼女は僕の目を見て言った。
「へ。」
「本当は米井さんがすっげえ気持ち悪いんですけど、でもなんか好きになってきた気がするようになってきた。そんな気がしないでもない。」
「はあ。」
「米井さん、いいですよ。」
「はあ。」
「そういった顔は今後私だけに見せるようにしてください。いいですね。」
「はあ。え?」
「いいかげん分かれよこの鼻スピ野郎!」
彼女は右からの鋭い回し蹴りを放った。さっき辞書入りハンドバッグが当たった場所に同じ角度で入り、僕は本格的に脱臼した。しかしまだだいじょぶな方の腕で彼女をぎゅうと抱きしめた。つづけ。

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